最近見た映画で、主人公の女性がある日突然、過去と未来に起こった光景を見れるようになるというエピソードがありました。
その女性は初め非常に動揺しますが、次第に自分が特殊能力を得て過去や未来に起こったことが透視できるようになったのだと気が付きます。
しかし家族は、彼女のメンタルがおかしくなってしまったのだと思い、無理やり精神病院に入院させます。
そこで主人公は定期的なカウンセリングを受けさせられ、いくら訴えても信じてもらえずメンタル疾患の診断を言い渡されます。そこから逃げ出し、自分を信じてくれる人に出会い、最終的には自身の能力を使って世界を救うファンタジーとミステリーを掛け合わせたような映画です。
映画ではとても面白かったのですが、現実世界でもし自分が他の人には見えない人物や物が見えたら怖いですよね。そもそも自分だけではそれが本物なのか本物でないのかさえ、見分けることはできないと思います。
今回は、精神機能の異常にはどんなものがあるのか見ていくとともに、自分の状態が正常なのかどうかを見分ける方法を見ていきたいと思います。
目次
- 精神機能とは
- 知覚の異常
- 思考の異常
- 記憶の異常
- 知能の異常
- 感情の異常
- 意欲の異常
- 意識の異常
精神機能とは
精神機能は下記の3つに大きく分けることができます。
- 知
- 情
- 意
知:「知覚、思考、知能、記憶など知的な機能全般」
情:「感情」
意:「意欲」
「精神面で出てくる病的な状態を『精神症状』」と言います。
「知」「情」「意」のそれぞれにおいてどのような精神症状が現れるのか見ていきたいと思います。
知覚の異常について
私たちは「何らかの刺激が感覚受容器に与えられることによって感覚を得ており」、「得られた感覚を判断したり解釈したりしてその刺激を認知しています」。この一連の流れを「知覚」と言います。
メンタル疾患では「視覚・嗅覚・味覚・聴覚・触覚など色々な種類の知覚の異常」が見られますが、この異常のことを「幻覚」と言います。
知覚「外界からの情報(刺激)を感覚として受け取り、その情報に意味づけをすること」
幻覚とは
視覚の異常と聞いて一番最初にイメージするのは「幻覚」ではないでしょうか。幻覚は「錯覚」と混同されがちです。実際には明確な違いがあります。
錯覚:「実際にあるものを誤って別のものと認識すること」
幻覚:「実際には存在しないものが見えたり聞こえたりすること」
知覚する対象が実際に存在するか否かが判断基準です。錯覚の方はどんな人でも日常的に起こりうることです。遠目で見て自分の知り合いかと思い声をかけようと思ったら、実はよく似た他人だったという経験は誰にでもあることではないでしょうか。
幻覚の一つ「幻聴」
幻覚の中でも最も代表的なのは、人の声が聞こえる「幻聴」です。
主に「統合失調症」の症状として見られます。その他にも、「覚せい剤中毒」や「アルコール依存」などでも幻聴が見られることがあります。
「殺す」「死ね」など「被害的または命令的な内容が多い」ですが、実は「頑張れ」「良くやっている」など「肯定的な内容のもの」もあります。
幻聴は「耳の中にスピーカーを入れられた」「頭に声が入ってきた」「宇宙人がテレパシーを送ってきた」など様々な感覚で現れます。
幻覚の一つ「幻視」
視覚的な幻覚は「幻視」と言います。
幻視は「意識障害」がある時にしばしば現れ、「アルコール依存症」や「覚せい剤中毒」でよく見られます。
「アルコール依存症」では、小さな虫や動物の幻視として現れる「小動物幻視」が見られます。
思考の異常について
思考とは「まとまりをもった概念を思い浮かべたり、判断や理解をしながら問題を分析・解決したりする一連の高度な精神活動」のことを言います。思考の異常は「思考形式」「思考内容」「思考体験様式」の3つに分けられます。
思考形式の異常
「思考の流れやプロセス」に異常が起こった場合のことを指します。思考形式の異常は主に5種類に分けられます。
- 思考制止
「考える速度が非常に遅くなり、判断や理解がとても遅くなること」を言います。
「うつ病」によく見られます。 - 観念奔逸(かんねんほんいつ)
「考える速度が速すぎて、本来の目的からすぐに外れてしまうこと」を言います。
「躁病」によく見られます。
躁病「テンションが非常にく、尊大、無遠慮、無神経、不遜な態度になる」症状。躁病の後うつ病を併発することが多い。「約1か月から2ヶ月程続く」。 - 滅裂思考(めつれつしこう)
「まったくまとまりのない支離滅裂な考え方をすること」を言います。
「統合失調症」によく見られます。
滅裂思考が軽度の症状のことを「連合弛緩」と言います。
統合失調症「精神的な機能の統合性に障害をきたす」症状。
「思考を統合する機能が失われやすいので、お互いに関係のない概念をバラバラと思いつくように」なったり、「思考がいきなりストップ」したりする。 - 思考途絶
「思考が突然停止したようになったり、考えていることが突然抜き取られたように感じたりすること」を言います。
「統合失調症」によく見られます。 - 迂遠(うえん)
「話が回りくどく、要領を得ず、本質を外れた些細なことまでこだわって結論に達しないこと」を言います。
「てんかん」や「脳血管障害の後」によく見られます。
思考内容の異常
「訂正不可能な誤った思考内容」になってしまう場合を指します。思考内容の異常で特に重要なのが「妄想」です。「統合失調症」の症状として有名で、「うつ病」や「躁病」でも見られます。
妄想=「訂正不可能な思考内容」を持ち「現実的な根拠を理由に誤りだと説得しても思考が訂正されることがない」症状。妄想は「薬物療法によって改善」されます。
妄想には以下のような種類があります。
- 妄想気分
「周りの世界を不気味に感じ、なんとなく様変わりしてしまったように感じること」を言います。「世界が破滅する」など訳も分からず恐怖を感じる妄想を「世界没落体験」と言います。 - 妄想知覚
「見たり聞いたりしたものに対して、意味のない関連付けをすること」を言います。例えば、「自動車が走り出すと自分を監視していた車だと確信する」などです。 - 妄想着想
「現実的でない考えを突然思いつくこと」を言います。例えば、「自分はキリストの生まれ変わりだ」と根拠がないのに確信してしまいます。 - 被害妄想・関係妄想
「客観的な根拠がないのに、自分が被害にあうと思うこと」を「被害妄想」、「客観的な根拠がないのに、特定の人や物が自分と関連があると思うこと」を「関係妄想」言います。
合わせて「被害関係妄想」とも言います。 - 微小妄想
「自分は取るに足らない人間だあると確信すること」を言います。「うつ病」の症状でよく見られます。
「貧困妄想(自分は経済的に破滅してしまうと確信する)」「新規妄想(健康なのに自分は大病を患っていると確信する)」「罪業妄想(自分は罪深い人間であると確信する)」は「うつ病の三大妄想」と言われています。 - 誇大妄想
根拠なしに「自分がずば抜けて能力が高いと過大評価すること」を言います。「躁病」や「統合失調症」で見られます。
思考体験様式の異常
「自我意識の異常」を指します。思考とは「自我を行う精神活動」ですが、「これが障害を受けると自分が自分である感覚や自分の思考をコントロールする感覚が失われます」。
自我=「自分について知っている意識的な部分」「イドと超自我の調整役」。
- 離人感
「自分が自分でない感じや現実感が乏しい感じのこと」を言います。「自分が見ているものやしていることに現実味が感じれなくなる状態が長く続くこと」を「隣人症」と呼びます。
「統合失調症」の他、「PTSD」「うつ病」などに見られます。 - させられ体験(作為体験)
「自分が何かに操られているように感じること」を言います。
「統合失調症」の症状として現れます。
させられ体験の種類としては「思考奪取」「思考吸入(思考を頭に吹き込まれていると感じる」「思考伝播」などがあります。 - 脅迫観念
「勝手に頭に思いが浮かんできてしまい、それを打ち消せない状態のこと」を言います。
「脅迫神経症」などの症状で見られる。
記憶の異常について
記憶には主に4つのプロセスがあります。記憶の障害は「このプロセスのどこかに異常をきたしてしまう場合」を指します。
- 記銘
- 保持
- 再生
- 再認
記銘は「感覚刺激を意味に変換し記憶表像として保存するまでの過程」のことを言います。
「認知症」ではこの記銘に支障をきたします。「昔のことはよく覚えているのに、最近のことが覚えられない」という症状も記銘の役割によるものです。
記憶障害には以下のような種類があります。
健忘
「過去の一定期間のことを思い出せない(再生できない)状態」のことを言います。
「頭部外傷や薬物なので意識障害を起こして、それ以前のことを忘れること」を「逆向性健忘」、「それより後のことを忘れること」を「前向性健忘」と呼びます。
その他にも、「あまりに衝撃的な出来事で、その出来事のことを思い出せなくなること」を「心因性健忘」、「日常生活は送れても、自分の過去や名前を思い出せなくなること」を「全生活史健忘」と言います。
デジャヴュとジェメヴュ
「初めてなのに以前に見たことがあるように感じること」を「デジャヴュ(既視感)」、「見慣れている情景が初めて見るように感じること」を「ジェメヴュ(未視感)」と言います。
健常者でも経験があることですが、「てんかん」でよくみられる症状です。
見当識障害
「時間や場所の見当がつかない状態」のことを指します。
作話
「思いついたでまかせの内容を本当のことのように話すこと」を指します。「覚えていなくてもつじつま合わせで適当な作り話」をします。「コルサコフ症候群」の中でも特に重要な症状です。
コルサコフ症候群
「「記銘障害」「健忘」「見当識障害」「作話」からなる健忘症候群」のことを指します。
「認知症」や「精神遅滞」「幻覚妄想状態」「意識障害」などの際に発症します。」
知能の異常について
知能は「課題を解決する思考能力」です。私たちは「推論」「考察」「理解」「学習」「思考」などを行い、目の前の課題を解決します。知能障害は大きく分けて2つあります。
精神遅滞(せいしんちたい)
「知能の発達が障害されたこと」を指します。「出生時や生後早期に何らかの脳障害を受けた時に見られます」。知能は「知能指数IQ」で程度が示されます。
認知症
「いったん発達した知能が障害されたこと」を指します。知能障害の他、先に取り上げた「記憶障害」や「見当識障害」、「人格変化」、「幻覚妄想」などを併発することがあります。
感情の異常について
「感情は人間にとって非常に重要な機能の1つですが、精神(メンタル)疾患ではこの感情に異常をきたすことがよくあります」。
感情の中でも「比較的長く持続する感情のこと」を「気分」と言います。気分よりももう少し短期的に起こり「ある体験などに反応して起こる激しい感情の変化」を「情動」と呼びます。
「感情に異常をきたすメンタル疾患」のことを「感情障害」と言います。「うつ病」と「躁病」、それらの状態を繰り返す「双極性障害」が感情障害の代表的なものです。
その他にも感情障害にはいくつか種類があります。
抑うつ気分(感)
「悲しくて憂うつな感情のこと」を指します。「この気分が持続している状態のこと」を「うつ状態」と言います。
うつ状態では「喜怒哀楽」「自責感」「劣等感」「自信喪失」「倦怠感」「焦燥感」「絶望感」など負の感情が見られます。
爽快気分
「陽気な爽快な感情のこと」を指します。「この気分が持続している状態のこと」を「躁状態」と言います。「躁病」によく現れる症状です。
躁状態では、「爽快感」「上機嫌」「自己肥大感」などの感情が見られます。
多幸
「ただただ上機嫌で、訳もなく明るい状態」を指します。「認知症」や「酩酊状態」でよく見られます。
児戯的爽快
「子供っぽく表見的な態度で、些細なことでもゲラゲラと笑うような状態」のことを指します。「統合失調症の慢性期」において現れます。
感情失禁
「些細なことでひどく激怒したり大泣きしたりして感情のコントロールができなくなる状態」のことを指します。「認知症」などによく見られます。
「些細なことに過剰に反応して怒りっぽくなること」を「易刺激性」と言います。
感情鈍麻(感情の平板化)
「喜怒哀楽が見られなくなること」を指します。「統合失調症の慢性期」に見られる他、「老年期認知症」や「精神遅滞」でも見られます。
「人間的な共感や愛情などの感情に乏しかったり、人間としての道徳感が欠如したリすること」を「情性欠如」と言います。
情動麻痺・両価性
「情動麻痺」は「予期しないショッキングな体験の直後に情動の反応が極端に鈍くなること」、「両価性(アンビバレンツ)」は「同一の対象に反対の感情を同時に持つこと」を指します。
補足:感情の異常と正常の違い
感情の異常と正常の違いは、以下の点で判断します。
- 「その感情が一定の範囲に収まっているかどうか」
- 「その感情を抱くのにふさわしい現実的な理由があり、その理由が解決したら感情も正常な範囲に戻るか」
「悲しむべき理由がないのに必要以上に抑うつ気分を感じる」場合は、うつ状態である可能性が高いです。
意欲の異常について
「生命や生活の維持に必要な行動をするようにうちから駆り立てる力」を「欲動」と言います。「その意欲を能動的にコントロールする力」を「意志」と言います。「意志と欲動を合わせたもの」を「意欲」と呼んでいます。
意欲=欲動+意志
意欲の異常についてみていきます。
無為
「意欲が減少し、自らは何もしようとしなくなった状態」を指します。
「統合失調症」などで見られます。
昏迷
「極端に意欲が低下して、外部からの刺激に反応しなくなった状態」を指します。「意識があるのに反応できない状態にある」という点が意識障害との違いです。
「うつ病」や「緊張型の統合失調症」で見られる。
躁病性興奮・緊張病性興奮
「躁病性興奮」は「多弁・多動・浪費・食欲増加」などが見られ「じっとしていられなくなり次から次へと行動を起こせずにはいられない状態(行為心迫)」を指します。
「緊張病性興奮」は「統合失調症」で見られ、「興奮してまとまりのない意味不明な言動が見られること」を指します。
異食症・性倒錯
「異食症」は「食欲の異常としてごみや草などを食べること」を指します。
「性倒錯」は「フェチシズム、サディズム、マゾヒズム」などを指します。
意識の異常について
意識とは「外部からの刺激を受け入れ、外部に反応できる機能」を言います。「意識のレベルには段階があります」。
意識清明=「意識がはっきりしている状態」
意識障害=「意識はあっても、質的に正常とは言えない状態」
意識障害は主に以下の2つに分けられます。
意識混濁
「意識の量的な異常」のことを指します。「意識混濁の度合い」によって下記の段階に分けられます。
軽いものから順に
- 「昏蒙」
- 「傾眠」
- 「昏眠」
- 「昏睡」
となります。昏睡は「意識がほとんど、あるいはまったくない状態」を指します。
意識変容
「量的な異常に加えて、質的な異常を伴っているもの」を指します。主な意識変容は以下の2つです。
- もうろう状態
「意識がはっきりしない状態で、不安・不穏な気持ちなったり、怒りっぽくなったり、錯覚を見たりすること」です。
「急性アルコール中毒」「てんかん」「ヒステリー」などで見られます。 - せん妄
「意識混濁に加えて、興奮や明らかな幻覚、強い困惑、錯乱、異常行動を伴うこと」を指します。
「手術後」「アルコール依存症」「覚せい剤中毒」「認知症」などで見られます。
まとめ
人間は「知覚」「思考」「記憶」「知能」「感情」「意欲」「意識」といった様々な精神機能を持っています。
それぞれの機能は私たちの生活を豊かにしてくれる一方で、障害にもなりえます。
自分の状態が正常なのかどうか、自分自身で見分けることは簡単なことではありませんが、上記に記載したような判断指標を持っていることで、自分や周りの人たちの不調にいち早く気づくきっかけになるのではないでしょうか。
メンタルの不調を気のせいにするのではなく、早めに原因を推定して対処できるようになりたいものです。
参考文献
『ケアストレスカウンセラー公式テキスト』 門倉真人・村上純子(著) 一般社団法人職業技能振興会 (発行) 有限会社小池企画印刷 (2020年改訂)
『心理学 新版』無藤隆・森敏昭・他(著) 株式会社有斐閣 (2019年改訂)
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